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​慈しの雨

作詞:久遠真雪、nononore
作曲:Shuka
歌唱:空華オキ
音の物語:nononore

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この涙が雨ならいいのに
多くの命を奪った日照り
枯れるだけの土を踏み
ふらつく足元鞭打つ

幼い頃伝え聞いた伝承
泉の神が呼ぶ奇跡
か細い腕で手繰り寄せるように
相見えた貴女の言葉

哀れなる人の子よ
全てを癒やす雨が望みならば
その想い、聞き届けましょう
いと愛しき貴方よ
その願い、叶えてあげましょう

貴女は確かに言った

あの日告げられた言葉を守り
神を讃える声が届くまで
歌と踊りを捧げた
救いの雨が降るように…

ぽつり頬を伝う涙一粒
また一粒と増えていく
その熱さを誰もが信じていた
降り止まぬ災禍に気付かず…

愚かなる人の子よ
全ての苦しみから解き放とう
この想い、美しいでしょう
かけがえのない子らよ
この願い、叶えてあげましょう

貴女は確かに笑った


 

 

――雨は降り続ける

悲鳴【うた】が聞こえなくなるまで

動き【おどり】が見えなくなるまで

人々の命の声

その灯火が尽きるまで

雨は止むことはなかった


貴女は確かに笑った


 

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痩せた青年が泉を目指していた。
青年の村は長く続いた日照りのため作物が育たず、多くの命が失われ始めていた。
家族のため、村のために、泉の神に願いを叶えてもらおうと青年は泉へ向かった。

──泉の神は人間がお好きだ。他の人間嫌いの神と違って、とても友好的に迎えてくれる──

青年の村に古くから伝わる言い伝え。
頼れるものは泉の神しかなかった。

山深い泉にたたずむ神は女性の姿をしていた。
驚くこともなく、全てを見通したような慈愛に満ちた表情で青年を待っていたようだった。
青年は泉の神に自分の村が干ばつの被害を受けていること、どうか雨を降らせて自分達を助けてもらえないだろうかといった旨を伝えた。

 《こんなに痩せこけた体で村のために危険を冒して、なんと愚かでか弱く愛おしい存在か

 その願い、叶えてあげましょう

 私がその苦しみを終わらせてあげる

 村に戻ったら、私にわかるように歌や踊りを捧げて知らせてほしい。必ずお前たちを助けてあげよう》

青年は大急ぎで村に戻り、村人達に伝えた。
村人達はとても喜び、すぐに泉の神を讃える祭りを始めた。
やがて歌と踊りに誘われるように雨が降りだした。
村人はより一層喜び、涙を流して感謝した。


───雨は何日も降り続け、田畑を潤した。
しかし何かがおかしい。全く止む気配がない。
気付いた時には川の氾濫が目前に迫っていた。

人間は理解していなかった。
神はあくまで神であり、人間とは全く違うものだということ。
友好的な姿はけして誤りではないが、友愛の情のかけ方が人間と神には大きな違いがあること。

《なんと愚かでか弱く愛おしい存在か

 その願い、叶えてあげましょう

 私がその苦しみを終わらせてあげる》

それは「干ばつの解消」という意味ではなかった。
もう苦しまなくてもいいように────

彼女は雨を降らせ続けた。
悲鳴(うた)が聞こえなくなるまで。
動き(おどり)が見えなくなるまで。
村人の命の灯火が尽きるまで、雨は止むことはなかった。


  《愛しく愚かしき人間、もう苦しむことはない
         また人間が私に助けを求めるまで、私はここで待ち続けましょう》

​©2025.10.19 燈籠華

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