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​ナガレサマの領域

作詞:久遠真雪
作曲:Shuka
歌唱:nononore
音の物語:Shuka

​か み
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光明けて 待ち侘びた日が来る
あの方【かみ】のための舞と詠
心を尽くせば
水は煌めき 草木は喜ぶ

今日を生き 明日へ行くとき
見えなくても加護がある
ああ どうか どうか 続いてくれるなら…

永遠を約束された村
飢えることを知らず
病に脅えることもなく
これからもずっと 変わることなく
日々を送るために封をした
ただ ただ 穏やかであれば…

 

月は巡り 願いは実を結ぶ
豊かな暮らしに抱く
理想の全てに
夢は膨らみ 緑は色付く

今日があり 明日へ行く風
恐れずとも良いはずよ
ああ なのに なのに 何かがおかしいの… 

永遠に束縛された村
望まぬ延命と
想定を越えた幸運は
それからはもっと 溢れ出してた
異変に気付くのが遅かった
ただ ただ 間に合って欲しい…

永遠に押し潰された村
川は無から溢れ
草木は家を侵食する
もう誰も住めぬ ナガレサマ【かみ】の領域
誰も立ち入ることの出来ない
ただ その 森だけが残った


 

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むかし、山のふもとの村々には、年ごとに加護を授けてゆくかみがいた。
人々は、流れるように村を訪れる様子から、そのかみを「ナガレサマ」と呼び、
1年ごとに加護が与えられる村が変わることも特徴であった。
迎える村では「オツタイ」と呼ばれる巫女が定められ、舞や詠を捧げてお迎えし、
年の終わりには次の村へと送り出すのが古くからの習わしであった。

ナガレサマが訪れた村には
澄んだ水を導く「清」
五穀豊穣を想う「成」
人の健やかを願う「生」
の3つの「せい」が与えられるという。


ナガレサマが訪れたある村でのこと。
その年選ばれたオツタイは、密かに願った。


「ナガレサマがこのまま村に留まってくだされば、さらに豊かになれるのではないか」と。


悪意はなかった。
ただ幸せを長く願ったばかりに、オツタイは封じの札を祭壇に貼り、かみの流れを止めてしまった。

その後、村は前にも増して栄え、緑豊かな地となった。
更に時が経つと病に伏した者は立ち上がり、老人は杖を捨てて足早に歩きだし、
望んだことが次々と叶う不思議な地となった。
だが繁栄はやがて行き過ぎ、村に生えていた草木は日に日に生い茂り、
水は道を川のように流れ家々を呑み込んでいった。
異変を感じたオツタイが祭壇を探したときには、扉も札も跡形すらなく、ただ森の深みに消えていた。
彼女は村の人々に自分がしてしまったことを全て話した。
人々は怒りを覚えつつもどうすることもできず、この出来事を心に刻み村から出ていった。

やがて、行き場を失い塞き止められていた加護は、地を裂くように吹き出し
山の麓の村々も同じように森に呑まれ、山さえも深い緑に覆われた。
そして、その場所は「かみの領域」と呼ばれ、二度と人の住む地とはならなかった。


人では制御できないほどの加護を与えるナガレサマとは本当に"神"であったのか、
それとも異なるものか。
今も答えは知られぬまま、人々の語り草となっている。

​©2025.10.19 燈籠華

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